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湘南堂書店


小学校に入学する前から大学卒業するまで住んでいた街に「湘南堂書店」という小さな書店があった。ここは親父の行きつけの本屋さんだった。我が家には、何時の頃からか毎月末か月初めには必ずいくつかの雑誌が配達された。坂の多い街で店主はバイクに乗って現れる。「ちわー湘南堂です。」僕は心の中で「王選手に似ているな」といつも思っていたが、声に出して言ったことは無い。母親は洋裁をしていた関係で「ミセス」というファッション雑誌を定期購読していた。気が付くと僕には「小学校1年生(小学館)」が定期的に届くようになっていた。紙面の中身はともかく、付録がとても興味深く、毎月楽しみだったことを覚えている。その後、この習慣は継続され「小学2年生」、「小学3年生」・・・中学に入ると「中1コース」・・・高校卒業時まで「高3コース」と続いた。何故こうなったのか?それは父親の教育方針の一環だった。父親は国学院大学 文学部卒で現代語はもとより古典にも造詣が深い人だった。残念ながら小説家にはなれなかったのだが、フリーランスで雑誌の連載をいくつも持つことで家族を養った。万年筆一本で稼いで、僕や妹を大学まで卒業させた。僕が中学に入ったある日、父に「この本屋では、いつでも”ツケ”で本を買っていいからな。」と言われた。月々のこずかいの額に不満があった僕は、本をドンドン買うことでストレスを解消した。「遠藤 周作」「井伏 鱒二」「井上 靖」「北 杜夫」「太宰 治」「志賀 直哉」など名だたる小説家の作品を読み漁った。父親は、どんなに本を買ってきても文句は言わなかった。中間試験や期末試験週間に入ると授業が半日になる。いつもより一層読書に励んだ。試験勉強はあまりしないので当然成績はぐんぐん下がる。でも、「本さえ読んでいれば大丈夫」と変な自信があった。中学3年の二学期ぐらいだろうか。見かねた父親から一言喝を食らった。「俺が大学を出ているのに息子のお前が大学に行かない訳にはいかないだろ?」文学部出の父親から「因数分解」を教わった。なんか自分が恥ずかしくなり、心を入れ勉強を始めた。 このような子供のころの習慣からか、今でも暇が有れば本屋に立ち寄る。眼に留まった本はドンドン買う。読み終わる前に次を買う。だから時々、同じ本を買うような失態が起こるのだけど。。。

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